| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(口頭発表) H2-25 (Oral presentation)

畑地土壌からのN2Oガス排出削減 - 新しい技術の必要性と可能性

*内田義崇,秋山博子(農環研)

農業分野が排出する温室効果ガスは、日本では国全体の2~3%だが、他分野同様、出来るだけ温室効果ガスを出さない努力が求められている。一酸化二窒素(亜酸化窒素、N2O)は、化学肥料や有機物として投入される窒素などを発生源とする温室効果ガスであり、一般的には窒素投入量と比例して発生量が多くなる。そのため、N2Oは施肥量を減少させることによりある程度削減できると考えられる。しかし現代農業では高い収量を維持するために多量の窒素肥料が用いられており、施肥量を減少させることによりN2O発生量を削減するのは現実的に難しい。

近年の研究により、施肥量削減以外の方法でN2Oを削減する技術が進歩している。例えば、N2Oを無害なガスであるN2に還元する遺伝子、またその遺伝子を有する微生物を用いることによりダイズ畑のN2O発生を削減できることが明らかになった。N2Oを発生する微生物には、N2Oのみを発生するものと、N2OをさらにN2に還元するものが存在する。ダイズ畑では収穫前後に根粒が土壌中で分解され、根粒菌によるN2O発生が起こるが、N2OをN2に還元する遺伝子を強化した根粒菌をあらかじめダイズに接種することによって、収穫前後のN2O発生を削減できることが明らかになった。この微生物を用いたN2O削減はダイズ畑以外にも応用の可能性があるが、世界レベルでの普及のためには様々な障害があり、将来のさらなる研究が期待される。

さらに、硝化抑制剤入り肥料や、被覆肥料などを用いたり、土壌団粒サイズを大きくしたりすることによってもN2O発生削減効果が期待される。N2O発生は土壌微生物活性や土壌物理性と深く関わっており、そのメカニズムは非常に複雑である。そのため、N2O削減のためには異分野の科学者の交流が不可欠である。


日本生態学会