| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(口頭発表) J1-06 (Oral presentation)

ヌマムツの遺伝的多様性と大阪府堺市の河川における個体群動態

*松岡悠,平井規央,石井実(大阪府大院・生命・昆虫)

ヌマムツNipponocypris sieboldii(コイ科,以下本種)は,従来,カワムツA型として扱われてきたが,2003年に独立種とされた.本種は主として西日本に分布し,大阪府RDBでは絶滅危惧Ⅰ類にランクされている.本研究では,本種の保全のための基礎的な知見を得るため,野外調査と採集を行い,得られた個体を用いてDNA解析を行った.調査は2011年3月~2012年12月に,大阪府および周辺府県の河川で,主としてすくい採りによって行った.その結果,大阪府4水系8カ所,京都府2水系2カ所,兵庫県2水系2カ所,滋賀県1水系2カ所,奈良,和歌山,三重,福井,岡山,徳島,香川各県1水系1カ所において本種の生息を確認した.遺伝子解析は,大阪府産83個体と他府県産91個体からDNAを抽出し,ミトコンドリアDNAのCyt b領域(1,152bp)の配列を決定して比較した.その結果,29塩基対に変異が認められ,全体で23ハプロタイプ,大阪府のみでは18ハプロタイプが,それぞれ確認された.河川や支流ごとに固有の変異が認められ,異なる水系間では分化が大きい傾向が認められた.また,支流ごとに遺伝的な分化が見られた地点もあり,遺伝的交流の範囲は比較的狭いことが示唆された.さらに,本種の個体群動態を明らかにするために,大阪府南部の石津川支流において,2012年5月~2013年1月に原則として2週間に1回,蛍光イラストマー標識を用いた標識再捕獲調査を行った.16回の調査で計616個体に標識し,再捕獲は約8カ月にわたってのべ167回であった.捕獲個体の平均体長は初夏から秋にかけて増加し,冬はほとんど変化しない傾向が認められた.


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