| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(口頭発表) J1-08 (Oral presentation)

ニホンウナギの保全における河口域の重要性

*海部健三(東大・院農), 青山潤(東大・大海研), 塚本勝巳(東大・大海研), 鷲谷いづみ(東大・院農)

ニホンウナギは重要な水産資源であるが、その個体数は急減少している。近年になって、本種が陸水に加入する際、河川河口域で初期の数年間を過ごす可能性が報告された。しかし、この報告は単水系(児島湾・旭川水系)、単年度(2007-8年)に限られたものであり、時空間的な一般性は確認されていない。本研究では、本種若齢魚のより一般的な成育場を明らかにすることを目的として、児島湾・旭川水系における複数年にわたる調査を実施し、そのデータを他水系の既存データと併せて評価した。

2007年9月より2010年8月まで、岡山県児島湾・旭川水系に計12定点(河川淡水域、河川汽水域、湾域)を設け、定量的採集を毎月行った。耳石から推定した年齢(n=454)は河川汽水域(表層塩分=10.1、平均±標準偏差=4.6±2.1歳)で最も低く、河川淡水域(淡水、7.9±2.4歳)と湾域(17.7、5.8±1.8歳)ではそれより有意に高かった。また、加入後 3年未満の若い個体(n=26)は,河口域のみで採集された。全長(n=544)は河川汽水域(443.7±115.7mm)で最も小さく,河川淡水域(518.1±93.0mm)と湾域(558.7±85.9mm)で有意に大きかった。個体密度は河川汽水域(CPUE:6.4±8.3尾/100筒)で最も高く、河川淡水域(3.3±6.4)と湾域(3.9±7.6)で有意に低かった。これらの傾向は、調査期間を通じて一致していた。

大分県安岐川で行われた同様の調査からも、河川汽水域上流部で採集された個体は、上下流域の個体より有意に若く、体サイズが小さいこと、および最も若い個体(2歳)が、同水域で採集されたという、同様の傾向が報告されている。

これらの知見から,河口域は、ニホンウナギの初期成育場であり、本種にとって保全上重要な水域であると結論できる。


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