| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(口頭発表) J1-12 (Oral presentation)

SSRマーカーを用いたサクラソウの花型識別の試み

*吉田康子(神戸大院農・食資源C),上野真義(森林総研),大澤良(筑波大院・生命環境)

サクラソウ(Primula sieboldii, 2n=24)は北海道から九州及びアジア北東部に分布する異型花柱性の他殖性草本である。現在は個体数の減少により、準絶滅危惧種に指定されている。野生集団の長期的な存続に不可欠な種子生産においては、集団内の長花柱花と短花柱花が同じ比率であることが望ましい。しかし花型は目視によって識別されるため、調査が開花時期に限定されること、また毎年全ての個体が開花しないことなどから正確な花型比の把握は困難であった。そこで本発表では、保全方策確立のための花型比のモニタリングを目指し、個体の生育状況に左右されないDNAマーカーを用いた花型識別を試みた。

北海道と長野地域由来の個体を用いた四系交配家系192個体を用いて、連鎖地図の作成およびS-locusの位置を推定した。さらに異型花柱性に関わる形質として、花筒長、柱頭高、葯高、葯長の4つの花器形質のQTL解析を行った。S-locusから1cM以内に座上した4遺伝子座について、各座の対立遺伝子とSまたはs対立遺伝子との連鎖関係を推測した。これらの連鎖関係に基づき、野生163個体と園芸品種54個体の花型を推定した。

14連鎖群からなる全長602.9cMの連鎖地図において、S-locusおよび各形質の寄与率の高いQTLがそれぞれ連鎖群7で検出された。これらの結果は連鎖群7に異型花柱性を制御する遺伝子が存在することを示している。野生個体と園芸品種の花型の識別を試みたところ、座ごとに推定される花型が異なる個体が見つかるなど、100%の識別率とはいかないものの、S対立遺伝子に連鎖した対立遺伝子の有無で花型識別が可能であることから、217個体のうち約8割の171個体の花型を識別することができた。この結果はDNAマーカーが集団の花型比のモニタリングに有効であることを示している。


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