| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-003 (Poster presentation)

蘚苔類群落の形態の違いがノキシノブの前葉体および幼胞子体の定着に与える影響

*水野大樹(千葉大・院・園),竹崎大悟(千葉大・園),百原新,沖津進(千葉大・院・園)

着生シダ類のノキシノブが,乾燥しやすい環境の樹幹上でも生育できる要因を明らかにするため,着生植物の定着に影響を与えると考えられている樹皮の構造と,保水効果や種子を固着させる作用がある蘚苔類群落に着目して調査した.

樹皮にひび割れがあるウメと,樹皮が平滑なモチノキで,それぞれの樹幹上に着生するノキシノブと蘚苔類群落の被度の関係について,方形区調査を行った.

ウメの樹幹では,蘚苔類が分布していない方形区にも前葉体が生育していたが,モチノキの樹幹では蘚苔類が分布していない方形区には前葉体はほとんど生育していなかった.蘚苔類の被度が60%程度までは被度の増加に伴って前葉体の定着率は高くなったが,それ以上の方形区では定着率が下がる傾向が見られた.幼胞子体の定着率はウメ,モチノキの樹幹ともに蘚苔類の被度と正の相関が見られた.前葉体の定着率は苔類(ウロコゴケ類)の被度と正の相関がみられたが,幼胞子体の定着率は蘚類の被度と相関が見られた.

ウメの樹幹では,割れた樹皮の隙間にシダ類の胞子が保持されることや,コルク層に保水効果があると予想されるため,蘚苔類がない場所でも前葉体が定着可能であると考えられる.一方,モチノキの樹幹では,シダ類の胞子は雨水によって流出しやすく,定着が困難であると考えられる.そのため,蘚苔類群落の葉の隙間に胞子が引っ掛かることで定着している可能性がある.前葉体は蘚苔類との競争に耐えながら生育していると予想されるが,前葉体より低い位置で群落を形成する苔類群落では競争の影響が小さくなるため,前葉体が定着しやすいと考えられる.一方,厚みのある蘚類群落内では前葉体の初期生長が阻害されることや,苔類群落内で定着した前葉体が幼胞子体を形成する間に蘚類群落へ遷移するため,幼胞子体の定着率は蘚類群落で高くなったと考えられる.


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