| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-076 (Poster presentation)

クロモの繁殖器官ごとの生育特性と種内競争

川畑幸樹(滋賀県立大・環)

クロモHydrilla verticillata (L.f.) Royle.(トチカガミ科) は、種子の他に2種類の栄養繁殖器官(殖芽と塊茎)の計3種類の繁殖器官を持つ沈水植物である。殖芽は水中茎に形成され、塊茎は地中に形成される。また、2種類の栄養繁殖器官が同一個体に形成されることはない。つまり、殖芽だけを形成する殖芽タイプと塊茎だけを形成する塊茎タイプに分けられる。また、種子は殖芽タイプの個体にのみ形成され、塊茎タイプには形成されない。本研究では繁殖器官ごとの生育特性と2種類の栄養繁殖器官間での種内競争の有無を野外実験プールを用いて検討した。

3種類の繁殖器官をプールで栽培し、ひと月ごとに刈り取りを行った。茎長や花の有無などフェノロジーの記録や繁殖器官の形成量、層別乾燥重量を測定した。種子タイプの初期の成長速度は栄養繁殖タイプに比べて著しい小さくなった。種子は栄養繁殖器官に比べ圧倒的に小さく、それが原因だと考えられる。殖芽タイプと塊茎タイプの間には形態的な差が見られた。殖芽タイプのシュート長は長いがシュート数は少なく、塊茎タイプのシュート長は短いがシュート数は多かった。初期の成長速度が劣っていた種子タイプも8月以降は他の2タイプと同等の現存量となった。また、種子タイプの繁殖器官の形成量は他の2タイプに比べて多かった。従来、種子の結実は稀であるとされていた。しかし本実験では種子タイプで種子が大量に結実した。種子は結実条件が厳しいが、繁殖器官としては優秀であると言える。また、塊茎タイプに比べ殖芽タイプは切れ藻が多かった。

種内競争の有無を検討するために、殖芽と塊茎を密度を変えて混植した。殖芽タイプが混合群落上部に卓越し、塊茎タイプを被陰した。1個体あたりの塊茎の形成量は塊茎タイプの植え付け密度が小さいほど少なくなった。これは高密度の殖芽タイプに被陰されたためだと考えられる。


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