| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-253 (Poster presentation)

一般気象要素のみを用いた新しいマラリア媒介蚊生育評価モデルの開発

*加我拓巳,太田俊二,柏田百代(早大・人間科学)

マラリア感染症の唯一の媒介蚊であるハマダラカ(Anopheles)の生育は水温や土壌水分量などの気候条件に強く影響されることが分かっている。しかし、多くのハマダラカ種が混在して分布しているモンスーンアジア域では、温度特性が種ごとに大きく異なることと、各種の気候要因と分布の関係性が不明瞭であったことの2つの問題から、モンスーンアジア域でのハマダラカ各種の時空間的な分布は十分に分かっていなかった。そこで、私たちはモンスーンアジア域のなかで重要なマラリアベクターとして知られているAn. sinensisAn. minimusAn. dirusAn. culicifaciesの4種に関して、各種の時空間的な分布を予測することを目的として気候学的要素と生理生態学的要素を組み合わせた新しい媒介蚊生育評価モデルを開発した。このモデルは各種一般気象要素から熱収支モデルと水収支モデルを用いてハマダラカの生育に重要となる水温と土壌水分量を日単位で計算し、それらの値をもとにハマダラカの生育を日単位で記述できる点に大きな特徴がある。このモデルに各種ごとの生育可能な温度の閾値や発育速度などのパラメータを入力し、各種それぞれの生育可能期間や年間世代数をモンスーンアジアの各地点ごとに計算した。得られた各種ごとの生育可能期間や年間世代数から各種の季節的消長や潜在生息可能域などを求め、実測データや他のモデルの結果と比較を行った結果、ハマダラカの時空間的な分布をうまく予測することが出来ていることが分かった。この新しい媒介蚊生育評価モデルは、生態学的要素を今後さらに導入することが出来れば、様々な地域での現在から将来までの連続的なハマダラカの動態の予測が可能となるだけでなく、マラリアリスク研究における生態学的モデルの基礎として活躍が期待出来るだろう。


日本生態学会