| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-263 (Poster presentation)

伊勢湾周辺におけるトウヨシノボリとトウカイヨシノボリの集団構造

*古橋芽,古田莉奈,向井貴彦(岐阜大・地域)

トウヨシノボリとトウカイヨシノボリは止水域を好むハゼ科の淡水魚で,トウヨシノボリは琉球列島を除く日本全国に,トウカイヨシノボリは岐阜県,愛知県,三重県の伊勢湾・三河湾周辺にのみ分布している.東海地方には両種が生息しており,生息環境が類似しているが,日本列島に広く分布するトウヨシノボリと東海地方固有のトウカイヨシノボリでは分散能力などに違いがあると考えられる.そこで,本研究では両種の遺伝的集団構造を調査し,比較した.また,トウヨシノボリは琵琶湖産アユの放流に混入することで人為的に分布が広がっていることから,琵琶湖産トウヨシノボリの侵入状況についても検討した.

トウヨシノボリは伊勢湾周辺と琵琶湖周辺の約90地点で採集し,mtDNAのND5領域の部分塩基配列約1000bpを決定した.ハプロタイプ系統樹を推定した結果,琵琶湖周辺の個体を含むmtDNAグループ(琵琶湖系統)と,伊勢湾周辺の個体のみで構成されるグループ(伊勢湾系統)に分けられた.琵琶湖系統に含まれる個体は,伊勢湾周辺ではため池やダム湖といった人工的な環境に多く見られた.一方,伊勢湾系統の個体は,濃尾平野の河川や水路に多く見られた.このことから,伊勢湾周辺の琵琶湖系統は人為的な移殖に由来すると考えられる.また,伊勢湾系統には明確な地理的変異が見られなかった.

東海地方固有のトウカイヨシノボリも同様の方法で塩基配列を決定し,ハプロタイプ系統樹を推定したところ,複数の地域集団に分けられることが示された。トウカイヨシノボリは丘陵地のため池に多く分布し,各地域集団の分布は,同様に東海地方の丘陵地に分布するウシモツゴの地域集団の分布と類似していたことから,両種が同じ歴史をたどってきたことが示唆された.


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