| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-283 (Poster presentation)

アゲハ類における精子の授受と活性

武藤直樹(筑波大・生物),*滝 若菜(筑波大・院・生命環境),渡辺 守(筑波大・院・生命環境)

蝶類のオスは、交尾時にメスの交尾嚢に精包というカプセルを注入し、精子はその中に含まれている。精子には有核精子と無核精子という二型が存在し、交尾終了後、両型の精子とも、受精管を経由して受精嚢へと移動していく。これまでに、無核精子の役割としてさまざまな仮説が提出され、そのひとつに、有核精子が交尾嚢から受精嚢まで移動するのを助けるという説がある。もしそうなら、有核精子自身の活性が高ければ、無核精子は少なく済むはずである。そこで、本研究では、有核精子の活性と受精嚢に到達する精子数との関係を明らかにすることを目的とした。まず、ナミアゲハを用いて精子移動の経時的変化を調べたところ、交尾終了後6時間で受精嚢まで到達したのは無核精子のみで、有核精子はそれに遅れて到達していた。交尾終了後24時間経過すると受精嚢へ両精子の移動は完了している。次に、メスの生涯交尾回数がどちらも約3回であるナミアゲハとクロアゲハを用いて、両精子の注入数と、交尾終了後24時間経った受精嚢に到達した数、交尾嚢に残存している数を調べた。有核精子の注入数はクロアゲハが多く、無核精子ではナミアゲハが多かった。受精嚢まで到達した数は有核精子と無核精子で2種に違いは認められなかったが、交尾嚢に残存していた精子数は有核精子でクロアゲハが多く、無核精子でナミアゲハが多かった。交尾終了後24時間経ったメスの受精嚢に存在する有核精子を顕微鏡下で動画撮影し、回転活性と精子長を測定したところ、クロアゲハの有核精子はナミアゲハより有意に長く、活性が高い傾向にあった。有核精子の活性が高ければ、無核精子が少なくても受精嚢まで到達できるに違いない。それがクロアゲハとナミアゲハの無核精子の注入数の差として表れたと考えられる。


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