| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-289 (Poster presentation)

キタキチョウの雄の精子生産速度と注入精子数

*小長谷達郎(筑波大・生物),渡辺 守(筑波大・院・生命環境)

一般に蝶類の雄は羽化後まもなく交尾が可能であるといわれてきた。例えば、モンシロチョウの雄は羽化当日に交尾可能であり、その際には雌の再交尾を抑制するのに充分な量の精包と、雌のもつ全ての卵を受精させるだけの精子を雌に注入している。しかし、全ての蝶類の雄が羽化後すぐに交尾できるわけではなく、キタキチョウの夏型雄では羽化直後の交尾活性が低い。これまで、雄の性成熟が遅れる昆虫において、その原因を精子の大きさに挙げた研究が報告されており、ショウジョウバエの仲間では、長い精子を生産する種ほど雄の性成熟が遅れるという。キタキチョウの有核精子は他種に比べて長いので、精子生産に時間がかかり、それが羽化直後の交尾活性の低さに関係しているのかもしれない。本研究では、室内羽化させたキタキチョウの様々な日齢の夏型雄を交尾させ、注入した精包の重さと精子数、雄体内に残存していた精子数を測定した。また、未交尾雄を直接解剖して、保有精子数を測ることも行なった。交尾は、数頭の未交尾の雌雄をケージ内に同居させて行なった。羽化翌日の雄の交尾活性は低く、40頭中1頭しか交尾を行なわなかった。注入した精包の重さは0.47 mg、含まれていた有核精子束は7本、無核精子は51000本だった。注入精包重量や保有精子数は、雄の日齢とともに増加したが、羽化後10日ほど経つと、注入精包重量や精子生産量は上限に達した。精子は、保有量に関わらず常に一定の割合で雌に注入されていた。これは、老齢の雄ほど多くの精子と大きな精包を生産・注入できることを意味するので、雌が複数回交尾して精子間競争が生じるなら、ある程度老齢になった雄の方が有利になる可能性が高い。したがって、若い夏型雄の交尾活性が低いのは、充分な量の精子や精包を生産できるまで待つ戦略であると考えられた。


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