| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-313 (Poster presentation)

岩手県と福岡県における育雛期サシバの給餌動物種およびその重量の地域差

*神水彩花(岩手大・院・農), 東淳樹(岩手大・農), 板谷浩男((株)緑生研究所), 鈴木篤博((株)緑生研究所), 金子健太郎((株)緑生研究所), 伊関文隆(希少生物研究会)

サシバ Butastur indicus は主に谷津田を含む中山間地域で繁殖する猛禽類で減少傾向が著しい。水田の転作や耕作放棄の進行により,本種の生息地機能が低下しつつあることがその要因の一つと考えられている。本研究では,本種の育雛期における給餌動物の地域差を把握するため,福岡県と岩手県において比較を行い,その違いを明らかにすることを目的とした。

本研究では,岩手県花巻市の二か所,福岡県糸島市の一か所の繁殖巣を調査対象とした。営巣木に小型カメラを設置して録画した映像を解析し,映像上で給餌された動物の体長を計測し,重量を推定した。

給餌回数割合は,岩手県ではカエル類が高いのに対し,福岡県では多足類・昆虫類が高かった。これは,営巣地周辺の環境の差異と食物動物の発生消長の違いが影響していると考えられる。また,岩手県では給餌回数割合が高いカエル類が給餌重量割合においても5割を占めたのに対し,福岡県では給餌回数割合の低いカエル類が6割を占め,給餌回数割合の高い多足類・昆虫類はともに1割に満たず,回数と重量の割合が逆転した。つまり,給餌重量の面からみると,福岡県の繁殖巣は岩手県よりも給餌効率が悪いといえる。また,福岡県の繁殖巣では,岩手県と比べて雛一羽あたりの給餌重量が少なく,岩手県では見られなかった兄弟殺しが確認され,給餌量が不足している可能性があった。栄養面から見ても多足類・昆虫類は給餌動物としては利用価値が低い分類群かもしれず,今後の研究が必要である。また,巣立ちまでの日数は福岡県の方が長かった。

どちらも例数が少ないため一般的な地域差とは言い切れないが,給餌面において,岩手県は福岡県よりも育雛において有利である可能性が推察された。


日本生態学会