| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-021 (Poster presentation)

中立説のパラメータ推定法の改良と熱帯林群集への応用

竹内やよい*,印南秀樹 (総研大先導科学)

群集の多様性や構造を説明するモデルの一つである中立説(Hubbell 2001)は、特に種多様性の高い熱帯林などの群集で当てはまりがよく、中立性が棄却できないことがこれまでの研究から示されてきた。これは、中立モデルの2つのパラメータのオーバーフィットによって中立ではない群集でもこのモデルがよく当てはまる問題に起因している。従って、中立性検定のためには正しいパラメータの推定が必要不可欠である。これまでの中立モデルのパラメータは、群集の種個体数分布から最尤推定で求められてきた。しかし、使用するデータは一回のセンサスで得られたものであるため、情報量が不足している可能性がある。そこで、この研究では時間軸のデータを追加することによって情報量を増やし、精度の高いパラメータ推定を行う新たな手法の開発を行った。ここでは、データを要約する複数の統計量をもちいてパラメータを推定するApproximate Bayesian Computation法を使用した。統計量には、Species richness, Shannon’s Hの他に、時間軸を表す情報として新規種数を用いた。まず、この手法の有効性を確かめるために、中立な群集のシミュレーションデータを用いてパラメータ推定を行った。Species richness, Shannon’s Hの二つの統計量を用いた際には、パラメータセットが2つ推定され、片方は誤った推定値であった。これは、従来の尤度を用いた推定と同じパタンである。しかし、新規種数を追加するとパラメータセットは正しい方の1つに収束した。つまり、新たな情報を追加することで推定が改善された。また、この手法を実際の熱帯林群集に応用した。得られたパラメータは、これまで推定されてきたパラメータとは異なる値であった。さらにこのパラメータを用いて中立性検定を行った結果、中立性は棄却された。


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