| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-024 (Poster presentation)

本州中部の山地湿原における踏圧排除後の植生変化

*尾関雅章,大塚孝一(長野県環境保全研究所)

本州中部山岳の山地湿原で生じた踏圧による植生荒廃地において、踏圧排除後の植生変化を明らかにするため、植生調査を行った。調査地は、飛騨山脈北部の天狗原湿原(標高2200m)と上信越高原の苗場山(標高2050m)で、天狗原湿原では1979年に、苗場山では2005年にそれぞれ踏圧により生じた植生荒廃地に設定された帯状調査区を用いて再調査を行った。再調査は天狗原湿原で2009年、苗場山では2012年に実施した。天狗原湿原、苗場山ともに、緩斜面上に湿原植生が発達しており、キダチミズゴケ、ワタミズゴケ等のミズゴケ類とイワイチョウ、イワショウブ、キンコウカ等からなるイワイチョウ-キダチミズゴケ群団が報告されている。天狗原湿原では、1980年に木道から湿原への立ち入りを防止するためのロープが設置されたこと、苗場山では、2005年に登山道が変更されたことにより、以後、踏圧が排除されている。

再調査の結果、天狗原湿原では、踏圧排除後も泥炭層の流出や裸地の拡大、植被率の減少が確認された。とくに泥炭層厚が10cm以下であった調査区では、泥炭層の流出にともなう露岩の進行により湿原性植物の大幅な減少とヤナギ類の侵入が確認された。苗場山では、2005年の調査時に泥炭層が流出し砂礫地となっていた調査区で、同様に湿原性植物の大幅な減少とヤマヌカボ、ヒゲノガリヤスの侵入が確認された。泥炭層厚が30〜40cm残存していた調査区では、踏圧による線状裸地はひきつづき認められたが、調査区の一部で裸地内にミヤマイヌノハナヒゲの侵入が確認された。

これらの結果から、中部山岳の山地湿原では、踏圧による植生荒廃後の自然条件下での植生回復は30年程度を経過しても困難であること、またその植生変化は、泥炭層の残存状況により異なる傾向を示すことが示唆された。


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