| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-026 (Poster presentation)

奥多摩地域の落葉広葉樹自然林の短期的変遷

森広信子(多摩森林科学園)

東京都西多摩郡奥多摩町、多摩川の大きな支流である日原側の源流域には、自然生が極めて高い森林が残っている。そのうち雲取山山頂近くの亜高山帯林は特別保護区となっているが、その下部の冷温帯性落葉広葉樹林もまた、太平洋側の地域の冷温帯林を代表するものとして貴重な存在である。

この地域の自然林は、ブナ優占林ではなく、ブナ、イヌブナの混生する多様性の高い森林となる。筆者は1996年から準備を始めて、1997年から永久プロットを設置して調査を継続してきた。15年は森林の変遷にとって短い時間ではあるが、ここに概要をまとめておく。

調査地は、主要区が0.94ヘクタール、胸高直径1m以上のミズナラの倒木に由来するギャップ区が0.16ヘクタールの、合計1.1ヘクタールである。

主要区の高さ1.3m以上の樹木の個体数は、1997年には1056個体だったが、漸減して、2012年には最初の65%、689個体にまで減った。主に小型個体の枯死・消失が多かったが、大型個体も少数が倒れている。この間、2007年まではBAの減少はほとんど見られなかったが、2012年には1割程度減少していた。新規に加入した個体はなかった。

これに対して、ギャップ区では、個体数は主要区と同じく減少したが、その数は最初の73%と、やや減少率が低い。BAはこの間に1割程度増加しており、増加率は最近5年間では減少傾向にある。新規加入個体は2個体あった。

新規加入が少ないのは、ニホンジカの影響が大きいと考えられる。樹皮剥ぎも多く、樹種によってはこれが原因で枯死したと考えられる個体が複数あるが、数の上では原因不明の枯死の方がはるかに多い。それ以上に林床植生が貧困化しており、樹木の実生は、ごく小型のものを除いては全く見られなくなった。ギャップ区で新規加入した個体は、倒木上にあるものであって、林床には将来的に加入する可能性のある稚樹は見当たらない。


日本生態学会