| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-182 (Poster presentation)

モンゴルの遊牧における季節移動と日帰り放牧

*Nachinshonhor G.U. (岡山大学), Eerdeni (東京大学), Jargalsaikhan L. (Batanical Institute, Mongolian Academy of Science))

冷涼な気候が卓越するモンゴル高原のおよそ7割を占める草原は(Yunatov 1976)、牧草として遊牧に利用されてきた(Tumerjav 1989)。草原の生産量は降雨量に強く影響されるため(Sala et al. 1988)、年度により現存量の分布に大きな変化が認められる。そこで、本研究は家畜の季節移動と日帰り放牧に焦点を当て、草原の現存量が遊牧活動に与える影響を明らかにすることを目的とする。

モンゴル国の乾燥草原を拠点とする1世帯の遊牧民の季節移動を4年間追跡し、放牧中のヒツジの移動(日帰り放牧)を3年間GPSで記録した。遊牧地の現存量は拡張植生指数(EVI)で評価した。遊牧移動を始める契機や、気候・植生の状態についての判断などについては聞き取り調査を行った。

草原の現存量が少ない年は、季節移動の頻度が高く、距離も長かった。現存量が多い年は、季節移動の回数が少なく、移動距離も短かった。季節移動は草原の現存量に依存していることが示唆された。

日帰り放牧の距離は寒季に短く、暖季に長った。暖季は家畜を放牧地から離れた水場に連れて行くが、寒季は積雪により水へのアクセス制限が解消されるためと考えられる。

日帰り放牧の間に採食する時間と距離は寒季より暖季の方が長かった。暖季は日照時間が長く、温暖で新鮮な牧草が採食できるからと考えられる。遊牧民は暖季には家畜の体力つくりを目指すが、寒季は家畜の体力温存に努めるためにできるだけ短い距離の日帰り放牧を行っていることが明らかになった。

草原の現存量が少ない年は長距離の季節移動し、局所に集中した利用を避けている。草原の現存量が多い年は季節移動の距離が減少し、日帰り放牧が強化されている。


日本生態学会