| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-201 (Poster presentation)

形態と系統の著しい不一致:北海道に産するエゾマイマイ群の例

*森井悠太(東北大院・生命科学),横山潤(山形大・理),河田雅圭,千葉聡(東北大院・生命科学)

オナジマイマイ科は日本の陸貝相を構成する主要なグループのひとつで、北海道にはマイマイ属サッポロマイマイのほか、北方系のグループとしてカラフトマイマイ属、ヒメマイマイ属、エゾマイマイ属、タカヒデマイマイ属の4属が分布している。近年の系統学的研究によって、オナジマイマイ科の北方系のグループが互いに非常に近縁な属である可能性が示唆された。これを受けて、北方系のグループ全4属の属間および個体群間の系統関係を推定した結果、中でもヒメマイマイ属とエゾマイマイ属はとりわけ近縁であることが示唆された。そこで、両属の関係を詳しく調べるために、さらに多数の個体を用いて分子系統解析を行った。その結果、核ITS、ミトコンドリア16S rRNAのいずれの領域においても各属の単系統性は支持されず、2属が入り交じる結果となった。両属を含むクレードでは個体群の地理的な位置関係が反映されており、属間でのハプロタイプの共有も見られないことから、形態的特徴と系統関係の不一致は過去に複数の地域で生じた交雑によるものと考えられる。また、両者のマイクロハビタットには違いが見られないにも関わらず、野外調査や殻形態の解析によっても雑種や中間的な個体が確認されないことから、現在では属間での交雑は生じていないと推定される。したがってヒメマイマイ属とエゾマイマイ属は互いに近縁で、最近まで交雑を起こすほどであったにも関わらず、現在では明確な形態的差異や生殖隔離を確立させていると考えられ、陸産貝類における種分化や生殖隔離の成立過程を探る上で非常に興味深い材料であるといえる。


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