| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-246 (Poster presentation)

粘液の安定同位体比分析:早い応答と反復測定の利点

*丸山敦, 重田雅(龍谷大・理工)

安定同位体比分析は、食物網解析や移入個体検出などの代表的なツールとなった。生物組織内の同位体比は応答に時間がかかるため、短期的な変動に影響されにくい特性において他手法より秀でる一方、遅すぎる応答速度が実験環境や季節変動に対応できないという難点を併せ持ってきた。また、測定は試料生物の死を伴うことが多く、稀少生物や実験環境に適用しにくい側面もあった。本報告では、水域生態系の消費者〜高次捕食者として重要な役割を果たす魚類を対象とした安定同位体比分析において、体表に分泌される粘液を用いることを再提案し、その即応性と非致死性をブルーギルの飼育実験により明らかにした。飼育実験は、滋賀県内のため池で捕獲したブルーギル成魚20個体を用い、二段階の水温を用意して行った。同位体比を均等にした市販の冷凍赤虫(ユスリカ幼虫)を毎日1回満足量与え、粘液を4日毎に7回(24日間)、反復採取した。反復採取では、蒸留水で湿らせたグラスファイバー濾紙GF/Fによって直接拭き取ることで試魚へのダメージを軽減できた。窒素・炭素安定同位体比の個体ごとの変化に対し非線形回帰(代謝モデル)を行った。濃縮係数は窒素2.9±1.0‰(平均±SD)、炭素1.5±0.7‰と求まり、個体間変異が個体内推定誤差よりも際だった(筋肉の分析にも同様の指摘がある)。置換速度の指標である半減期は、窒素6±4日、炭素3±1日と求まり、半減期が数ヶ月とされる筋肉、鰭、骨などを用いた従来法よりも遥かに早い応答を示すことが分かった。反復測定が可能で応答の早い粘液の安定同位体比分析は、汎用性を大きく広げると期待される。一方、窒素安定同位体比の濃縮係数の個体間変異は、体サイズと水温によって説明されうることが示唆され(筋肉の分析にも同様の指摘がある)、野外データの慎重な解釈の必要性も示唆された。


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