| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-247 (Poster presentation)

河川複雑系食物網の高精度解析 ~アミノ酸窒素安定同位体比からのアプローチ~

*石川尚人,加藤義和(京大・生態研),冨樫博幸(京大・フィールド研),吉村真由美(森林総研),由水千景,奥田昇,陀安一郎(京大・生態研)

動物のアミノ酸窒素安定同位体比は、その動物の栄養段階を精度よく推定するのに有効な指標として、近年注目を集めている。しかしながら、複雑な食物網の解析に対してアミノ酸同位体比を応用した例はほとんどなく、この指標が生態系一般に広く応用可能かどうか、まだ分かっていない。

発表者らは、陸域と水域の境界面にある河川生態系の食物網を高精度に解析することを目的として、以下の研究を行った。まず河川生態系の時空間的な環境変動を捉えるために、流域土地利用の大きく異なる2河川の上下流2地点において、2011年11月と2012年5月の2季節に野外調査を行った。次に採集した水生昆虫や魚類、およびこれらの餌資源のアミノ酸窒素安定同位体比を測定した。その結果、グルタミン酸とフェニルアラニンの窒素同位体比から、河川食物網の一次消費者(カゲロウやトビケラ幼虫)の栄養段階は、生産者(藻類や陸上植物リター)よりも1段階高く、食性に近い推定値が得られた。一方、肉食性の水生昆虫(カワゲラやヤゴ幼虫)や魚類の栄養段階は、単一の餌資源(水域生産者)を仮定すると、食性からの予測値よりも低く推定された。グルタミン酸とフェニルアラニンの窒素同位体比は、陸域・水域生産者間で関係性が異なる。そこで、陸域・水域生産者に由来する食物連鎖の混合を考慮し、高次捕食者の栄養段階を計算したところ、食性からの予測値に近くなった。

本研究から、河川生態系のような複数の食物連鎖が食物網を構成する複雑系の解析に対して、アミノ酸窒素安定同位体比が有効な指標となることが示唆された。本発表では、特に高次捕食者で栄養段階が低く推定された結果について考察を加えるとともに、河川間・上下流間・季節間の比較についても議論したい。


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