| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-250 (Poster presentation)

アミノ酸の窒素安定同位体比を用いた琵琶湖産魚類の栄養段階推定

*加藤義和・石川尚人・冨樫博幸・由水千景・陀安一郎・奥田昇(京都大)

従来の食物網解析では、栄養段階(TL)を推定するためのツールとして、生物組織全体(バルク)の窒素安定同位体比(δ15Nbulk)が用いられてきた。しかし、バルクによる解析では、一次生産者のδ15Nbulkが時空間的に大きく変動する点や分類群によって濃縮係数が違う点など、いくつかの問題点が指摘されている。近年になって、生物に含まれる各種アミノ酸の窒素安定同位体比(δ15NAA)を用いたTLの推定手法が開発されたことにより、例えば、水域の栄養起源のみを起点とする食物網においては、TLを正確に推定できるようになった。しかし、陸水生態系においては、陸域や水域で生産された多様な栄養起源を消費者が利用することが一般的であり、δ15NAAに基づくTL推定においても、これらの資源の混合を考慮する必要がある。本研究では、琵琶湖流域に生息するヨシノボリ類およびアユについて、δ15NAAに基づくTL推定を行った。生活史に応じて湖内と流入河川を行き来するこれらの魚種は、水域由来の栄養起源(付着藻・植物プランクトン)と陸域由来の栄養起源(陸上から流入したリター)を混合して利用していると予想されるため、これらの資源の混合を考慮した計算式によってTLを推定した。その結果、河川に定着したヨシノボリは、陸域由来の栄養起源にも最大40%程度依存している点が明らかになった。また、初夏に河川で採集されたアユは河川の栄養起源でなく、それまで成長してきた湖内の栄養起源を反映していることが示唆された。これらの結果から、魚類の生活史特性をもとに栄養起源の混合を考慮すれば、δ15NAAは陸水生態系の複雑な食物網構造を解明する強力なツールとして活用できることが示唆された。


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