| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-289 (Poster presentation)

アンコウ背鰭の左右非対称性から考える並行捕食の卓越メカニズム

*八杉公基, 堀道雄(京大院・理)

左右性は種内二型の一つであり、個体群中に右体側が発達する右利き個体とその逆の左利き個体が存在する。近年の研究から、左右二型は魚類で普遍的な現象であることが示唆されている。この現象が魚類の生態に与える影響として、捕食者は自分と同じ利きの被食者を捕らえる場合(並行捕食)よりも、逆の利きの被食者を捕らえる場合(交差捕食)の方が多いことが知られている。これまでに発表者らは、捕食者の接近行動と被食者の回避開始距離には利きと対応した左右方向性があり、利きの組み合わせで捕食の成功しやすさが変化するため、交差捕食の卓越が生じることを行動観察から明らかにした。そして、捕食者が被食者の背後から襲う捕食被食関係では交差捕食が卓越し、逆に両者が向かい合う関係では並行捕食が卓越することを予想した。しかし、後者を示す捕食被食関係はこれまでに発見されていなかった。

この予想を検証するのに適しているのが、疑似餌で被食者を誘引するアンコウと、海底付近を浮遊する底層遊泳魚の捕食被食関係である。先行研究および飼育観察から、両者は向かい合う形で遭遇することが分かっている。そこで発表者らは、アンコウとその胃から得られた底層遊泳魚について利きの対応を検討した。その結果、ホタルジャコなど5種との間で予想通り並行捕食が卓越していた。しかし逆に、アカハゼなど海底に接して生活する底性魚5種との間では交差捕食が卓越していた。さらに、これらの偏りが生じるメカニズムを探るため、疑似餌となるアンコウの背鰭に利きに応じた方向性があるかを検討した。その結果、左利きのアンコウでは頭骨の中心線より左向きに、右利きでは右向きに背鰭が生えている傾向が見られた。底層遊泳魚が利きに応じた方向性を持って疑似餌に接近する場合、このような背鰭の左右非対称性は並行捕食の卓越を促進すると考えられる。


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