| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-299 (Poster presentation)

侵入生物の分布拡大:周期的環境下における個体群圧力の効果

飯沼万美子(同志社大・文情),重定南奈子(JST・さきがけ),川崎廣吉(同志社大・文情)

一般的に、生物は、それまで生息していなかった新たな地域で繁殖するようになる「侵入」とその分布域を拡大させていくことをさす「伝播」を繰り返しながら分布域を拡大していく。生物の分布拡大におけるモデルは、Fisherの反応拡散モデルに始まり、一様な環境だけではなく、より実際の生息環境に近づけるために、生物にとっての好適環境と不適環境が交互に周期的に存在する周期的変動環境における反応拡散モデル、それに加え移流(生物が好適環境に誘引される効果)を含んだ移流反応拡散モデルも構築されてきた。今回の研究では、これまでの移流反応拡散方程式に「個体群圧力」を組み入れ、周期的変動環境において、個体群圧力が分布拡大のパターンや分布拡大の伝播速度にどのような影響を与えるかについて調べた。個体群圧力とは、密度が高いほど、個体の分散率が高くなる効果のことである。

侵入生物は、好適環境と不適環境に応じて個体数が変動する周期的進行はとして拡がっていく。また、個体群圧力が存在すると、侵入生物はより速い速度で分布拡大をする。移流の値に関わらず、個体群圧力の効果が大きくなるに従って伝播速度は速くなるが、移流がない場合、個体群圧力を変化させても伝播速度にあまり変化は見られなかった。移流がある場合は、移流と個体群圧力の相乗効果により伝播速度が加速され、移流が大きくなればなるほど、個体群圧力が伝播速度に及ぼす影響が大きくなることが明らかになった。これまでに、アリジゴクの棲息密度についての実験的研究から、実際の生物において個体群圧力があることが分かっていたが、シミュレーションにおいては、さらに個体群圧力による分布拡大への効果が明らかになった。


日本生態学会