| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-315 (Poster presentation)

扁形動物カイヤドリヒラムシは、なぜイシダタミガイを主要な宿主として利用するのか

*藤原悠太, 武田哲(東北大・生命)

扁形動物門渦虫綱多岐腸目に属するカイヤドリヒラムシStylochoplana pusillaは、主にイシダタミガイMonodonta labio confuseの外套腔中で見られるとされているが、他の巻貝でも見つかるので、宿主巻貝との関係は種特異的ではない。それ故潜在的宿主巻貝間における寄居率や寄居個体数などの宿主―寄生者(利用者)の関係の違いを解明することで、宿主選択に関する情報、すなわち潜在的宿主巻貝のもつどのような要因が本種の宿主選択の発達に関わってきたのかを明らかにすることができると考えられる。

青森県陸奥湾夏泊半島において、潜在的宿主巻貝の生態と生息環境、カイヤドリヒラムシの宿主利用の関係を調べたところ、本種はイシダタミガイを主要な宿主として利用しており、水気の多い生息地のイシダタミガイで多くの個体が見られた。また、野外で潜在的宿主巻貝の行動を観察したところ、イシダタミガイのみが潮間帯を主な生息域としていることが分かった。次にカイヤドリヒラムシが入り込んでいる外套腔の上部を覆う外套膜の長さを比較したところ、イシダタミガイは他の巻貝と比べ相対的に長い外套膜を持つことが判明した。また、カイヤドリヒラムシによる宿主利用の違いを明らかにするために、実験室で行った宿主の選択実験は、カイヤドリヒラムシがイシダタミガイを選択的に利用することを示した。さらに、実験に用いる宿主巻貝の外套膜の長さを統一するために巻貝の大きさを変えた実験でも、イシダタミガイを選択することが分かった。以上の結果から、野外での潜在的宿主巻貝間におけるカイヤドリヒラムシの寄居率の違いは宿主巻貝の選択によるものであり、カイヤドリヒラムシの宿主選択の発達には宿主巻貝の生態が大きく関わっていたと考えられた。


日本生態学会