| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-321 (Poster presentation)

生態系サービスの認知が保全の行動意図におよぼす影響:社会心理学からのアプローチ

*今井葉子,角谷拓(国環研),上市秀雄(筑波大・システム情報系),高村典子(国環研)

本研究では、社会心理学の分野で用いられる意思決定モデルを援用し「生態系サービスの認知」から環境保全の「行動意図」へ至る市民の意思決定プロセスを定量的に明らかにすることを目的に、市民を対象とした全国規模のアンケート調査を実施した。アンケートの設計は、既存の社会心理学の意思決定モデルにもとづき行い、4つの生態系サービス(基盤・調整・供給・文化的サービス)から恩恵を受けていると感じていること(生態系サービスの認知)と環境保全の「行動意図」の関係を記述する仮説モデルを構築した。2011年9月に電子媒体の調査を実施し(対象は調査会社登録の20~69歳男女、送信40233件、回収6443件、回収率16%)、人口構成比比率を反映した上で5225件(男性2625名、女性2600名)のデータが得られた。共分散構造分析を用いた解析の結果、4つの生態系サービスのうち「文化的サービス」のみが「行動意図」との有意な関係性が認められた。社会認知に関わる要素では、周囲からの目線である「社会規範」や行動にかかる時間や労力などの「コスト感」がそれぞれ「行動意図」に影響しており、これらの影響度合いは「文化的サービス」からのものより大きかった。居住地に対する「愛着」は「社会規範」や「コスト感」との有意な関係が認められた。さらに、回答者の居住地の都市化の度合いから、回答者を3つにグループ分けして行った解析結果から、上記の関係性は居住環境によらず同様に成立することが示唆された。これらの結果は、個人の保全行動を促すためには、身近な人が行動していることを認知するなどの社会認知を広めることに加えて、生態系サービスのうち特に、「文化的サービス」からの恩恵に対する認知を高めることが重要となる可能性があることを示している。


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