| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-356 (Poster presentation)

繁殖北限域におけるサシバの給餌動物としての昆虫の意義 -昆虫の発生消長とサシバの育雛期間のミスマッチ-

*稲村弘一,東淳樹(岩手大学・農)

サシバは両生・爬虫類、小型哺乳類、昆虫類を捕食し、主に里山環境で繁殖する猛禽類である。岩手県においては両生・爬虫類の給餌割合が高いのに対し、関東以西においては昆虫類の割合が高い。このように、類似した環境であっても、地域によって給餌する動物の割合に違いがあることがわかっている。これは、本種の育雛期間と給餌動物の発生消長に関係があると思われる。岩手県において、育雛期に昆虫類の給餌割合が低い理由としては、本種の育雛期と昆虫類の発生消長のタイミングにミスマッチが生じているからであると考えられる。そこで本研究では、給餌割合の高い両生・爬虫類と岩手県で給餌例のある昆虫類数種の発生消長を比較し、給餌動物としての昆虫類の意義を考察した。

調査対象種として、給餌割合の高いトウキョウダルマガエルとニホンカナヘビ、ヘビ類、給餌割合の低い昆虫類としては、トンボ亜目成虫・幼虫、ガ類幼虫、コウチュウ目、セミ類、バッタ目・カマキリ目を選定した。本種の繁殖が確認されている範囲内に調査地を設定し、各対象種の個体数をカウントした。

両生・爬虫類は、本種の育雛期間である5月下旬から7月上旬に発生のピークがあり、トンボ亜目の幼虫を除いた昆虫類は7月上旬以降にピークがあった。このことから、岩手県において昆虫類の給餌割合が両生・爬虫類よりも低いのは、両生・爬虫類の発生時期が本種の育雛期間と重なっているのに対し、昆虫類のそれは重複しないためであると考えられた。

本種の給餌動物の中では、昆虫類の消化吸収効率は著しく低いことがわかっている。今後予想される地球温暖化によって、岩手県において昆虫類の発生時期が早期化した場合には、昆虫類の給餌割合が増加し、本種の繁殖成績に影響が及ぶ可能性が懸念される。


日本生態学会