| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-442 (Poster presentation)

外来種スイセンハナアブと同属在来種の遺伝的多様性の比較

*須島充昭,伊藤元己(東大・総合文化)

スイセンハナアブ属Merodonは、地中海沿岸域を中心に世界で約160種が知られているハナアブ科の一属である。本属の自然分布域の東端は日本であり、日本には関東以西に在来種カワムラモモブトハナアブM. kawamuraeが分布している。また1990年代以降、ヨーロッパ原産の外来種スイセンハナアブM. equestrisの東日本における侵入、定着が確認されるようになった。本研究ではDNAバーコード(mtCOI、658bp)を用いて両種の遺伝的多様性を比較した。サンプリング地点及び個体数は以下の通りである。スイセンハナアブ:横浜(15)、東京(16)、仙台(16)、埼玉(6)、八王子(3)、計56個体。カワムラモモブトハナアブ:埼玉(26)、八王子(2)、兵庫(4)、計32個体。なお、埼玉と八王子では両種が同所的に発生している。

これらのDNAバーコードを調べたところ、スイセンハナアブでは大半(56個体中55個体)が同一ハプロタイプであり、横浜からは1塩基相違する別ハプロタイプも1個体見つかったが、日本における本種の遺伝的多様性は低かった。なお、Marcos-Garcia et al.(2011)は、ヨーロッパ南部に本種の複数のCOIハプロタイプが分布していることを示している。そのため本種の遺伝的多様性の低下は、本種がヨーロッパ北部へ分布を拡大した際、または人為を介して日本を含む海外へ侵入した際のいずれかで生じたと推測される。一方カワムラモモブトハナアブでは関東から5つ、関西から2つ、計7つのハプロタイプが見つかった。関東産と関西産を比較した場合には7-10塩基の相違が見られ、同一種内の個体群間としてはやや高い遺伝的分化(遺伝距離約1.3%)が認められた。


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