| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-481 (Poster presentation)

由良川河口域における植物プランクトンの基礎生産構造

*安佛かおり(京大・農),舟橋達宏(京大・農),石井健一郎(京大・農),笠井亮秀(京大・農),上野正博(京大・フィールド研),山下洋(京大・フィールド研)

河川と海域の推移帯である河口域はきわめて生産性の高い水体のひとつである.河川水と海水の混合の様相は,潮汐,河川流量,地形などの影響により様々に変化し,生物群集の構造や機能に影響を与える.本研究を行った由良川下流域は河床勾配が緩く,また日本海は潮汐差が小さいため,夏季には海水が河川内に侵入し典型的な弱混合型の様相を呈する.海水の侵入によって成層が形成される際,塩分躍層直下にクロロフィル極大が観測されるが,その形成機構など藻類群集の基礎生産についてはよくわかっていない.そこで本研究では由良川河口域の基礎生産構造を明らかにするための調査・実験を行った.

調査は由良川の河口から塩分が1以下になる18km上流地点までの区間で行った.水深はほとんどの地点で3~5mである.河口から2km間隔で水温・塩分・クロロフィル蛍光の鉛直分布を観測し,また高濃度クロロフィルが観測された地点において,表層,中層(塩分躍層),底層で,13Cを用いて現場法で基礎生産量を求めた.

5月の調査では調査区間を通して水深1~2mに塩分躍層が見られた.クロロフィル蛍光値は,表層に比べて塩分躍層下で高く,深度とともにまた塩水楔の先端部で,より高かった.表層,中層,底層の平均生産量は,各々,10.6,8.9,6.4 mg C m-3 h-1で,水柱全体では34 mg C m-2 h-1であった.各層の値をクロロフィルa当たりで比較すると,表層を1としたとき,中層と底層では0.60と0.35となった.生産量および光合成活性の傾向はクロロフィル濃度の傾向と逆の関係にあり,河口域では表層水と中・底層水とで植物プランクトンの生産量と現存量のつながりが異なることが示唆された.


日本生態学会