| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


シンポジウム S10-4 (Lecture in Symposium/Workshop)

ヤマホタルブクロにおける花サイズの標高間変異と遺伝子流動

長野祐介(信大・理・生物)

植物集団間の適応分化は、地理的な環境の違いに対する適応と集団間の遺伝子流動に影響される。一般に、遺伝子流動は集団間分化を阻害する。しかし、遺伝子流動が存在する中でも、ある形質に対して地域特異的な選択圧が強くかかれば、その形質状態は地域適応として集団中で維持されるだろう。本研究では、短い距離で急激な環境変化をもたらす標高傾度に着目し、標高間での花サイズの地域適応と遺伝子流動について評価した。

ヤマホタルブクロは、中部山岳域の幅広い標高帯に生育しており、マルハナバチ類が主な送粉者として知られている。マルハナバチ類は標高によって分布種組成が変化することが知られており、幅広い標高帯に分布するマルハナバチ媒植物の花形質に対して標高ごとに異なった選択圧を与えていることが予測される。

本講演では、ヤマホタルブクロの花形質における標高間変異を検出し、その変異が送粉者による選択圧の変化によって生じているのかを操作実験によって検証した結果について報告する。中部山岳3山域の標高700~2300mの7地点で花サイズと訪花マルハナバチ相及びその形態サイズを調べ、GLMM解析を行った結果、花サイズの変異に対する地点ごとの平均ハチサイズの影響が支持される一方で、標高傾度そのものの影響は認められなかった。また、操作実験により送粉効率が花とハチのサイズマッチングに影響されることが示された。一方、標高間で中立遺伝子マーカー(SSR)の分化があるかを評価したところ、標高間での顕著な遺伝的分化は見られず、遺伝子流動の存在が示唆された。

これらの結果から、遺伝子流動が存在する中でも、標高間での生物間相互作用の変化によって、花形質の多様化が導かれていることが明らかとなった。


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