| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


シンポジウム S10-7 (Lecture in Symposium/Workshop)

標高による遺伝的分化の特性を考える

田中健太(筑波大・菅平セ)

この講演では、進化生物学の研究フィールドとしての標高傾度が持つ魅力や展望について総括を試みる。

標高傾度は緯度と並んで、生物の適応進化全体の様相に影響を与える環境要因である。標高方向の温度変化は水平方向に比べて約800倍速く、短い空間距離の中で激烈な環境傾度が生じる。また複数の山域を調査することで、標高傾度の反復が容易に得られる。標高傾度が持つこれらの特徴は、移住・分散履歴の影響を受ける中立的な遺伝構造から、ゲノム上の特定の部位に働いた自然淘汰を区別する上で、大きな長所となる。

頻繁なジーンフローがある空間スケールの中で自然淘汰が働いた場合、地点間でゲノム全体がシャッフルされる中で自然淘汰が働くゲノム上座位だけが顕著に遺伝的分化するという状況が生じうる。これは自然淘汰の検出に極めて有利である。一方で、ジーンフローの効果が自然淘汰を上回れば、不適応な遺伝子の流入であるmigration load(移住荷重)によって適応進化そのものが阻害されるかもしれない。また、標高傾度に固有な特徴として、低標高帯は山域間が空間的に連続しているのに対して高標高帯は不連続であること、高標高から低標高へのジーンフローの方がその逆よりも起こりやすいことと言った、標高帯間の非対称性がある。これらの点が生物の適応進化に与える影響は興味深い。例えば、高標高への適応の方が低標高への適応よりも移住荷重が少ないために容易だろうか?標高方向の適応進化を担う遺伝的変異は、低標高では山域間で共通で、高標高では山域ごとに固有だろうか?さらには、標高に沿って広域に分布する種とそうでない種がいることもこうした問題と関わっているのだろうか?

最後に、こうした標高研究を推進している中部山岳地域大学間連携事業(JALPS)の取り組みについて簡単に紹介する。


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