| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


シンポジウム S11-2 (Lecture in Symposium/Workshop)

社会性昆虫の繁殖システムの進化

松浦健二(京大院・農・昆虫生態)

アリ・ハチ、シロアリなど真社会性昆虫のコロニーの血縁構造、ひいてはメンバーにとっての包括適応度利益は、その繁殖システムに大きく依存する。近年、社会性昆虫の新たな繁殖システムの実態が次々と明らかになっており、繁殖システムの多様性をもたらす進化的要因について関心が高まっている。特に、複数のアリとシロアリにおいて、女王が産雌単為生殖で次の女王を生産していることが明らかになっており、次世代への遺伝貢献を巡る雌雄間の対立が、繁殖システムの進化に大きな影響を与えていることが示唆されている。アリの新女王の単為生殖生産とシロアリの単為生殖による女王継承(AQS)システムは、一見似ているように見えるが、その結末は大きく異なる。アリでは、女王側の利己的戦略として新女王が単為生殖で生産され、雄アリは次世代に遺伝子を残す術を失い、激しい性的対立を伴った進化的袋小路となる。このような種では、繁殖システムに地理的変異があることが知られており、元の有性生殖で女王生産をしている集団も見つかっている。一方、シロアリのAQSは創設女王の次世代への遺伝的寄与を維持するだけでなく、近親交配回避や末端融合型オートミクシスによる劣勢有害遺伝子の排除を通じて王や他のメンバーにとっての利益をもたらし、コロニーレベルでも有利に機能している。そして、一旦AQSが起源すると、地理的変異を残さず集団中に一気に広まっていることが分かってきた。また、AQSシステムのシロアリでは、単為生殖で生まれた子が、女王フェロモンによる抑制を回避して女王分化していることが分かっており、これには母系ゲノムのインプリンティングが関与している可能性が高い。シロアリでは、次世代への遺伝貢献を巡るゲノムレベルの対立が、より長期安定なコロニー存続を可能にする繁殖システムの進化をもたらしたという新たな仮説について議論する。


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