| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


シンポジウム S12-2 (Lecture in Symposium/Workshop)

種子植物の繁殖戦略(種子vs.クローン)と空間遺伝構造

荒木希和子(京大)

植物の中で、種子繁殖とともにクローン繁殖を行うクローナル植物は、様々な分類群において独立に、また種子繁殖のみを行う種から進化してきたとされ、その様式や程度もさまざまである。クローン繁殖によって作られた子孫は一般に種子よりサイズが大きく、親から栄養を受けて成長するなどの特性により種子実生に比べて生存率が高い。一方で、分散能力は、他の媒介者を通じて散布される種子に比べて、親の周囲の狭い範囲に限られる。

また、クローン繁殖によって作られた子供は、遺伝的に親と同一なので、親と似ている環境には広がりやすいと考えられる。つまり局所環境が均一であれば、クローン個体が拡大するが、資源の不均一な配置や撹乱などの環境変化はクローン増殖を妨げる。したがって、種子植物におけるクローンの拡大は、その種の繁殖様式についての戦略(種子とクローン子孫の割合)、クローン子孫株(ラメット)の分散能力ならびに親の周囲環境の時空間的不均一性に左右される。

多年生植物の集団は、その生育地の現在の環境のみならず、過去の環境変化とそこで働いた選択圧、共存する個体や種との競合などを反映した構造を持っている。空間遺伝構造もそのような構造の一つであり、集団の空間遺伝構造から、種の繁殖戦略(種子繁殖とクローン成長の割合)と環境の時空間的変動との適合をある程度知ることができる。

本発表では、ユリ科を中心に、種子繁殖とクローン繁殖への投資の異なる植物種の空間遺伝構造を調べ、環境の空間的不均一性と攪乱頻度を変化させたシミュレーションの結果生じる空間構造と比較し、さまざまな繁殖戦略(クローン繁殖の程度)がどのような生育地微環境の不均一性に適応的かについて議論する。


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