| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


シンポジウム S13-6 (Lecture in Symposium/Workshop)

移動境界問題としての藻類マットモデル:パターン形成と光を巡る競争

吉山浩平(岐阜大・流域圏)

藻類マットに見られる空間構造は、植物プランクトンのそれと似ているようで実は異なる。水中において、光は水表面より供給され深度とともに減衰し、栄養塩は深水層または底泥から拡散により上方へと供給される。その結果、光と栄養塩を必須資源として増殖する植物プランクトンの空間分布は、乱流拡散と相まって顕著な鉛直方向異質性を示す。植物プランクトン鉛直分布に関して、パターン形成や鉛直的棲み分けによる多種共存、分化適応に関する理論は近年発展を遂げており、理論を検証する実験的試みも進んでいる。一方、藻類マット中でも光は上方から、栄養塩は下方から供給される、同様の空間異質性が見られる。ところが、水中と異なり、藻類マットは水表面や底といった固定された境界を持たず、その広がりは増殖・死滅・分解・水中からの粒子の沈降により、時とともに変化する。そのため、藻類マットの鉛直構造は、境界の位置が固定された植物プランクトンの場合と異なり、境界が動的に変化する「移動境界問題」として定式化される必要がある。これまで、藻類マットの形成過程を表す理論モデルは存在しなかった。本研究では、湖底や河床に見られる藻類マットの形成に関する新しい数理モデルを紹介する。数理モデルの構築では、藻類マット各部分が、増殖・分解により増減し、その総和として藻類マットが成長するという基本プロセスのみを考慮する。新しく得られたモデルの解析から、藻類マットのパーシステンスと多種の共存可能性に関する結果を紹介する。


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