| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


シンポジウム S13-7 (Lecture in Symposium/Workshop)

室内実験から読み解く南極湖底藻類の光合成と色素合成誘導の光波長依存性

田邊優貴子(東大・新領域)

南極の夏季における約2ヶ月間にわたって、南極湖底の藻類マット群集の光に対する応答について研究を行った。現場環境での測定結果から、湖氷の消失によって水中の光強度が急増し、湖底藻類群集の光合成活性が急激に低下した。しかし、光エネルギーがそのまま高い状態で持続したにもかかわらず、光合成活性は徐々に回復し、光合成活性低下から20日後には湖氷消失前と同レベルまで上昇した。藻類群集の色素分析によって、光増加に伴い、藻類群集表面の光防御色素・紫外線防御物質の含有率が高くなっていることが明らかになった。藻類群集が色素機能・光合成・マット構造によって巧みに、白夜・極夜・湖氷環境といった激しい光変動が生じる南極湖沼環境に適応的に応答していることが示唆された。

このフィールドでの研究結果と数理モデル研究に対する実証、さらにモデル構築のためのパラメータ採取として、現場、および、実験室において光環境制御実験を行った。現場実験では、湖底から採集した藻類マットを湖面で培養し(自然条件下と同じ水温・光環境)、光透過特性の異なる4つの光学フィルターによって光環境をコントロールし、光合成応答と色素合成を調べた。室内実験では、大型スペクトログラフを用いることにより、320〜660 nmにかけて20 nm間隔の単色光を、国内に持ち帰った藻類マット、および、そこから単離した藻類培養株に対して照射し、現場実験と同様に光合成応答と色素合成を調べた。これらの実験により、南極湖底藻類の光合成特性と色素合成誘導の詳細な光波長依存性を明らかにすることを試み、現場で捉えた現象と、その理論的説明のためのモデル構築へとつなげることを目指した。


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