| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


企画集会 T04-2 (Lecture in Symposium/Workshop)

景観がかえる耕作放棄の影響~カエルとゾウムシを例に~

*黒江美紗子(九州大・理), 佐藤孝, 金田吉弘, 蒔田明史(秋田県立大・生物資源)

複数の環境を利用する生物にとって、耕作放棄による農地の土地利用変化は正にも負にも影響しうる。耕作放棄による草地の出現が、水田と草地の境界域を増加させる一方で、森林と水田が隣接する環境の減少を引き起こすためである。正負どちらの影響をもたらすかは、対象生物がどのような環境の組み合わせを選好するかに加え、景観要素の配置が重要となるだろう。

本研究は、景観要素の配置が大きく異なる平野と中山間地を対象に、水田を利用するトノサマガエルおよび水稲害虫イネミズゾウムシが、耕作放棄地から受ける影響について明らかにする。稲作が盛んな秋田県の中山間地と平野を対象に、まず始めに、対象生物の放棄地の利用状況を調べるため、様々な地点から採取した個体の安定同位体比分析を行った。その結果、カエルとゾウムシの両対象生物において、C4植物を多く含む放棄水田に近い個体ほど炭素の同位体比の値が高くなった。次に、観察された生息数と土地利用構造の関係を一般化線形モデルにより解析した。その結果、耕作放棄がカエルの生息数に及ぼす正の効果は平野に限定されており、中山間地では周辺水田面積の減少に伴い負の影響が強くなった。一方、イネミズゾウムシは、耕作放棄から常に正の影響を受けていたが、その正の効果は平野よりも、周辺の森林面積が増加する中山間地のほうが大きくなった。

これらの結果から、両生物とも草地と水田の組み合わせを利用してはいるものの、耕作放棄が生息数に対し正負どちらの影響をもたらすかは、景観の配置に加え、どのような景観要素が存在するかに依存することが明らかとなった。


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