| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


企画集会 T06-4 (Lecture in Symposium/Workshop)

間伐強度の異なるスギ人工林における栄養塩の循環

*林誠二, 渡邊未来, 越川昌美 (国立環境研究所), 渡邊圭司 (埼玉環境セ・国立環境研究所),多田千佳, 深澤遊, 清和研二(東北大 院農)

森林の生態系機能の一つとして水質浄化機能がある。これは、本来貧栄養で維持された自然植生の栄養バランスの許容範囲内で、大気降下物等による外部からの栄養塩負荷の吸収、循環によって発揮されるものである。しかし、近年、大都市周縁の山地森林生態系では、大気降下物由来の慢性的な高窒素負荷による窒素過剰(窒素飽和)状態が顕在化し、さらに、針葉樹人工林における間伐遅れによる林分の過密化が、それを助長している可能性が高い。適切な森林管理は、窒素飽和を改善する可能性を有する一方、その検討事例は極めて少ない。

本研究では、下層植生の発達構造の違いが、スギ人工林の窒素動態に及ぼす影響を把握するため、異なる間伐強度(無間伐、1/3間伐、2/3間伐)で管理されている試験林を対象に、野外調査や水文解析を行った。その結果、無間伐区、1/3間伐区ともに、表層土壌の間隙水中に硝酸イオンの高濃度集積が見られる一方、2/3間伐区では、土壌深さ方向全般に亘って常に硝酸イオン濃度が低く、根圏土壌からの硝酸イオン溶脱量も無間伐区に比べ3%程度(積雪期を除く)と推定された。また、2/3間伐区では草本類とともに浅根性のミズキ(S. controversa)を主とした木本類の顕著な混入が生じ、これら下層植生による単位面積当たりの最大窒素吸収量は、無間伐区の約6倍となった。本結果は、夏期に多雨を生じる温暖湿潤気候条件下での、スギ人工林による栄養塩循環(水質浄化機能)の維持促進とそれを活用した窒素飽和現象の改善には、強度間伐による種多様性の回復(針広混交林化)とそれに伴う栄養塩吸収に係る根系の有効深度の多様性確保が、重要であることを示唆するものとなった。


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