| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


企画集会 T08-1 (Lecture in Symposium/Workshop)

はじめに:サンゴの個体・群集・生態系の基本構造について

向草世香(JSTさきがけ,長大・水産,琉大・熱生研)

サンゴは動物でありながら、陸上植物と似通った生活史を送る。サンゴと植物の比較を通じて、陸域と海域での生態学的現象の統一的な理解を進めることを本企画は目標としている。そこで、まず、サンゴの生活史、群集や生態系の構造を紹介する。

サンゴは、生活史の初期はプラヌラ幼生として海中を浮遊分散する。数日から数週間でポリプ(個虫)に変体し、岩盤に固着した後はその場所から動くことはない。ポリプを自己分裂によって増やして群体を形成していくことで個体は成長する。サンゴが植物になぞられる最大の理由は、「褐虫藻」と呼ばれる渦鞭毛藻類が細胞内共生しているためである。サンゴは栄養分の多くを褐虫藻の光合成産物に依存しており、群体の成長には光が欠かせない。したがって、サンゴ群集では植物群落や森林と同様に光を巡る競争が重要になる。

その一方で相違点もある。サンゴは群体動物であるがゆえに、植物のように根、幹、葉、といった機能の分化や休眠のステージがない。そのため、例えば枝状サンゴの枝が折れても、条件さえ整えば枝は岩盤に再固着し、成長して大きくなることができる。有性生殖と同様に、群体の破片化による無性生殖も成長の様式の1つである。また、群体の一部が死に、個体のサイズが小さくなることも頻繁に起こる。このことから、群体のサイズは可変性が高く、サイズと年齢は必ずしも一致しない。

サンゴの群体形は、種によって大まかに決まっており、枝状、テーブル状、塊状、被覆状などさまざまである。サンゴが岩盤を覆うことで複雑な海底景観がつくりだされ、魚やカニ、エビ、ゴカイなどいろいろな生物へ棲み場所、隠れ場所を提供する。また、栄養塩の乏しい亜熱帯海域ではサンゴの出す粘液は重要な栄養素の1つでもある。このように、サンゴは、サンゴ礁生態系の生物生産と生物多様性の根幹を担う重要な生物である。


日本生態学会