| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


企画集会 T10-4 (Lecture in Symposium/Workshop)

環境保全における異分野コミュニケーション:13部局から構成されるカワバタモロコ増殖・放流連絡会議を例に

田代優秋(徳島県立佐那河内いきものふれあいの里ネイチャーセンター)

生物多様性の保全において,根源的課題として利害対立が未だ生じている.生物多様性の保全は,人々の持続的で健全な暮らしのために達成すべき要件と捉えられている.一方で,関係者間で利害が複雑に絡み合う実際の“保全の現場”では,生物や自然を巡る多様な価値観や主義・主張を持つ関係者と協議しながら,物事を前進させなければならない.このため今後求められるものとして,異なる背景を持つ利害関係者同士が合意を形成する過程で交わされる公式・非公式を含めたコミュニケーション活動(異分野コミュニケーション)に関する実務的な技術の蓄積であろう.そこで本報告では,徳島県の産官学民13部局による異分野コミュニケーション活動を通じて実現された新しい希少種保全の枠組みについて紹介したい.

徳島県では,すでに絶滅したと考えられていた小型淡水魚カワバタモロコが再発見されたものの再び野生絶滅する危険を回避するために,県立水産研究所において親魚の増殖に努めてきた.こうした保全活動を行政機関が公共サービスとして実働し続けることは難しい.今後は,新たな公共として多様な主体の連携を基盤とした自然が守られる社会の仕組みが必要であろう.そこで,カワバタモロコを不可侵な生物ではなく,自由に利活用できる県民の財産として“自然資源”に位置づけ,誰もが関われる公平な“参加の機会”を設けた「徳島県希少野生生物の保護及び増殖に関する協定書」を策定した.策定にあたっては,教育機関,民間企業,土木系行政部局,自然保護系行政部局,研究機関,民間環境団体が参画して異分野コミュニケーションが行われ,生態学的に定義される生物多様性の考えは「尊重すべきひとつの価値観」と捉えることが実利的であった.


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