| 要旨トップ | 受賞講演 一覧 | 日本生態学会第60回全国大会(2013年3月,静岡) 講演要旨


日本生態学会宮地賞受賞記念講演 2

大規模長期生態学のすすめ

中村誠宏(北海道大学 北方生物圏フィールド科学センター)

新たな研究テーマをどうやって探せばいいのか?若手の研究者は常々悩んでいる.新たな研究は奇跡的に浮かんだアイデアから生まれることは稀で、既存のデータや考え方をベースにして生まれると言われているが、どうしたらいいのだろう?私たちは研究テーマを考える際に研究論文を読むが、それだけでは良いアイデアに繋がらない.論文には研究の失敗例やそれを実行する際の苦労は載っていないし、また隠れているまだ産声を上げていない研究のシーズもなかなか見あたらない.なぜなら、ほとんどの論文は完結した成功例しか書かれていないからである.しかし一方で、たくさんの人(研究者)に出会って彼らから生の声を聞き、他人の経験を自分のモノにする機会があったならば、実現性がありかつ独創的な研究テーマが見つかるかもしれない.大規模長期生態学は、「人と出会う場」、そして「研究をする場」を提供してくれる.そのことにより、一人ではできなかった新たな研究に取り取り組むことができる.

研究者が一人で研究テーマを考え抜くことはもちろん重要なことではあるが、一方で「人との出会い」も研究テーマを考える際にとても重要なことである.この講演では、新たな研究を考える際にこの両方を意識して進めてみてはどうだろうか?ということを提案する.そこで、講演者がこれまで大規模長期生態学のアプローチによって行ってきた研究を紹介する.大規模長期生態学のキーワードとして、長期観測、研究サイト・ネットワーク研究、大規模操作実験の3つを挙げる.長期観測とネットワーク研究から時空間的パタンが検出でき、そこから仮説をたてて大規模操作実験による仮説検証型の研究に繋げていくことができる.

講演者は環境省主導で行っている「モニタリング1000プロジェクト」やJaLTER(日本長期生態学研究)に関わる研究者や技術職員との出会いから様々な研究に巡り会えた.たとえば、長期観測からドングリの豊凶パタン、ネットワーク研究からブナ葉の食害の緯度勾配パタンが見えてきた.それらパタンと温度との因果関係(メカニズム)を検証するため、林冠木(ミズナラ、カンバ)を暖める大規模操作実験を行っている(写真2).これらは一人の研究者だけでは得られない、大規模長期生態学による共同研究だからこそ得られた成果である.このように個人経営から脱去することで新たな研究テーマへの道が開けるのかもしれない.

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