| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(口頭発表) B2-06 (Oral presentation)

温暖化と富栄養化に伴う湖底貧酸素化に対する底生種の絶滅リスク評価

*谷内茂雄(京大生態研), 奥田 昇(京大生態研), 酒井陽一郎(京大生態研), 北澤大輔(東大生産技研), 中野伸一(京大生態研)

人間活動が湖沼生態系に与える影響評価の一例として、温暖化と富栄養化が琵琶湖の底生魚類であるイサザ個体群の絶滅リスクに与える影響の評価について報告する。琵琶湖は淀川水系の上流に位置する日本最大の淡水湖であり、近畿圏の生活・産業・文化を支える水資源と生態系サービスを供給している。しかし、琵琶湖は高度経済成長期以降、琵琶湖総合開発による大きな改変や富栄養化を経験するとともに、近年では地球温暖化による平均水温の上昇が報告されている。「温暖な年一回循環湖」である琵琶湖は、温暖化が進行すると冬季の鉛直循環が弱まるため、低層水の溶存酸素濃度の低下などを通じた底生生物への悪影響が懸念されている。このような背景をもとに、本発表では、まず温暖化が、1)貧酸素仮説、2)水温レジーム仮説、3)水温媒介型競争仮説という、おもに3つのメカニズムを通じてイサザ個体群の変動を引き起こすことを、重回帰分析による結果をもとに報告する。次いで、1)~3)の各メカニズムを特徴づける3つの指標を説明変数とし、イサザ個体群のCPUE(単位漁獲努力量当たり漁獲量)を目的変数とした「変動予測モデル」を作成した。各指標は、水温(温暖化)と負荷量(富栄養化)の関数でもある。水温と負荷量は、琵琶湖湖水の物理的ダイナミクスと生態系の低次生産のダイナミクスを結合した「流れ場-生態系結合数値モデル」によって計算できる。したがって、これら2つのモデルを組み合わせることで、温暖化シナリオに対するイサザ個体群の平均的な個体群変動を統計的に予測することができる。発表では、これまでの研究の概要を紹介するとともに、今後、イサザのPVA(個体群存続可能性解析)を組み込むことで、底生生物の絶滅リスク評価への発展についても報告したい。


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