| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(口頭発表) C1-03 (Oral presentation)

着生シダ植物の定着および初期成長にコケ植物群落が果たす役割

*水野大樹,百原新,沖津進(千葉大・院・園芸学)

倒木上での実生定着や,着生植物の種子の定着には,コケ植物群落による定着促進効果が重要であると考えられている.我々は,着生シダ植物の定着に着目し,前葉体の定着にコケ植物群落がどのような影響を与えるかについて調査した.その結果,コケ植物の存在によって着生シダ植物の前葉体の定着が促進されるが,コケ植物の種によって定着促進の程度が異なることが明らかになった.本研究発表では,コケ植物の種によって着生シダ植物の定着促進の程度が異なる要因について検討する.

コケ植物群落が着生シダ植物の定着を促進させる要因として,①コケ植物群落内に散布された着生シダ植物の胞子が降雨後でも群落に保持される可能性,②コケ植物群落のもつ保水効果によって着生シダ植物の前葉体が乾燥から守られている可能性の2つが示唆されている.コケ植物による胞子の保持効果を検証したところ,岩の表面に散布された胞子は降雨後に4割以下にまで流出するのに対して,コケ植物の群落内では8割以上の胞子が残っていた.コケ植物の保水効果を検証したところ,コケ植物群落は乾燥重量の9倍以上の水分を保持し,群落高があるほど水分の保持量が多かった.

群落高があるコケ植物では胞子の保持効果や保水効果が高く,着生シダ植物の定着に適した環境を有する.しかし,このような群落内ではコケ植物群落よって生育初期の前葉体が被陰されやすく,生育が阻害されやすい.実際,崖や樹幹上では,群落高が1mm程度の小型の苔類が群落をつくる場所に前葉体が多く定着している.コケ植物群落が存在する場所の方が,胞子が保持されやすいが,群落に厚みがある種では保水効果による正の効果よりも被陰による負の効果が大きくなるため,定着には不適な環境になると考えられる.


日本生態学会