| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(口頭発表) C2-09 (Oral presentation)

三方湖のヒシ繁茂における移入系統拡大の可能性

*五十住遥(東京大・総合文化),西廣淳(東邦大・理),吉田丈人(東京大・総合文化)

福井県三方湖において、浮葉植物のヒシ(Trapa japonica)は近年急激に分布を拡大した。ヒシ帯拡大の原因は未だ不明であるが、種子形態に明瞭な変異が存在するとともに、以前から分布する系統と現在分布拡大している系統は遺伝的に異なっており、移入系統による置き代わりが一つの仮説と考えられる。本研究は、この仮説に関わる基礎的な知見を得るために、三方湖に生育するヒシの成長特性の差異について、栽培実験と野外調査により調べた。

栽培実験では、ヒシ種子を形態に基づいて「在来型」と「導入型」に分別して用い、栽培条件に「中栄養」と「富栄養」を設定して、5月間タンク内で栽培した。栽培終了後にヒシの乾燥重量と種子数を求めるとともに、栽培期間を通して葉面積を測定した。その結果、栽培終了後の種子重と種子数は「富栄養」条件で大きく、富栄養環境で種子生産を盛んに行っていた。葉面積は、実験期間を通して「富栄養」条件で「中栄養」条件よりも有意に大きく、富栄養環境に適応的であることが支持された。また、フェノロジーについては、「導入型」の葉面積が「在来型」より栽培期間前期に大きい傾向が見られ、「導入型」が高い初期成長を持つことが示された。

野外調査では、三方湖内の複数の地点で8月にヒシを採取し、ヒシの乾燥重量とロゼット数を測定した。また、各地点でヒシの被覆率も算出した。その結果、ヒシの形態は地点間で大きくばらついており、被覆率との有意な相関が見られた。

以上より、ヒシの形態およびフェノロジーといった成長特性は、栄養条件・種子形態・被覆率の影響を受けることがわかった。これらの影響が、三方湖におけるヒシの分布拡大にどう関連するかは現時点では不明だが、現在進めているヒシ試料の遺伝解析により仮説の検証が前進すると思われる。


日本生態学会