| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(口頭発表) D1-10 (Oral presentation)

樹上で?地上で?ツキノワグマの堅果類採食様式を考える-GPS首輪と首輪型カメラ追跡の事例から

後藤優介(立山カルデラ砂防博物館)

冷温帯林が広く分布する地域に生息するツキノワグマにとって、ブナ、ミズナラ等の堅果類は秋の重要な餌資源であると考えられている。しかしながらクマは直接観察が困難であるという性質から、それら堅果類の詳細な採食様式や行動を解明することは困難であった。

本研究では北アルプス、立山カルデラ周辺において捕獲した2頭のクマの追跡から、ブナ豊作年におけるブナ堅果の採食様式についての事例解析を試みた。ビデオカメラ付首輪を装着した個体(♂亜成獣、2011/10/27~10/31)では、ビデオカメラによりクマの口元を撮影することで得られた映像(計9時間43分)から、「歩く」,「止まる」等の移動行動、「嗅ぐ」「食べる」等の活動行動を区分し、各行動の継続時間を1秒単位で算出することで採食行動の定量化を行った。その結果、この期間の多くはブナ堅果を地上で採食しており、口先を地面につけたまた、鼻先や手で落ち葉をかき分けながら、地面より堅果を拾い食べる行動が観察された。また、地上採食中は一時的に数秒間顔を上げて周囲を見回す等の行動以外は、大きな移動を伴わず、ほぼ同一箇所で採食を続ける行動が記録された。

GPS首輪を装着(♂成獣、2005/9/16~9/25)し、短期間の集中追跡を行った個体では、得られた行動軌跡と現地踏査による痕跡、糞の分析から1日3本のブナに登り堅果を利用する採食様式が観察され、この時の行動圏は3日間で10ha以下と狭い範囲となった。

以上のことから、本研究ではブナ豊作年における極めて限られた事例であるが、クマがブナを利用する際、樹上および地上採食とも大きな移動を伴わず、狭い行動圏の中で採食行動を行う事例が観察された。今後、様々なケーススタディを蓄積することで、採食様式を基にした行動の評価により、新たな知見が得られることが示唆された。


日本生態学会