| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(口頭発表) E1-07 (Oral presentation)

放射性炭素を用いた熱帯雨林樹木の成長量解析技術の開発

*市栄智明,吉原良,高山佳苗(高知大・農),五十嵐秀一(愛媛大院・連合農),田中憲蔵,新山馨(森林総研),Abd Rahman Kassim,Christine Dawn Fletcher(マレーシア森林研),陀安一郎(京大・生態研セ)

気候に明瞭な季節性のない熱帯雨林では、樹木に年輪が形成されないため、これまで長期の成長解析が困難であるとされてきた。肥大成長の履歴は、過去の環境変動に対する樹木の応答を示す重要な手掛かりとなる。本研究は、米ソ冷戦時代の大気核実験の影響による大気中14C濃度の急激な変化を利用し、熱帯雨林樹木の成長速度を高精度で特定する新しい技術の確立とその精度検証を目的として行った。マレーシア・パソ森林保護区において、1969年から幹の周囲長が継続して記録されている6科12種18個体を選び、調査対象とした。各個体から木部コアを採取し、過去の幹周囲長の記録をもとに、1970~2000年の間に材が形成されたと考えられる2~5箇所について、材の14C濃度を測定した。14C分析から特定した炭素年代と実際の木部コア間の距離から、2点間の肥大成長速度を求め、周囲長データから得られた成長速度と比較した。その結果、14C濃度から算出した成長速度は、周囲長データから求めた成長速度と高い正の相関関係があった。つまり、14C分析により熱帯雨林樹木の過去の成長量が高精度で特定できることが明らかになった。しかし、成長が早い個体に比べ、遅い個体では2つの測定方法で求めた成長速度の間の相関が低かった。これは、分析に供した材切片中に複数年で形成された組織が含まれるため、あるいは幹周囲長の計測誤差が原因として考えられる。今後はより薄い切片や複数個所の切片を用いて分析を行うことで、熱帯雨林樹木の成長履歴をより高精度に特定することが可能になると思われる。


日本生態学会