| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(口頭発表) E1-13 (Oral presentation)

シロアリのカースト分化における社会生理機構に関するトランスクリプトミクス

渡邊大(北大院・地球環境),松波雅俊(北大院・地球環境),林良信(シドニー大),重信秀治(基生研),三浦徹(北大院・地球環境),前川清人(富山大院・理)

社会性昆虫であるシロアリのコロニーでは様々な要因に応答してカースト比が制御されている.兵隊はコロニーの防衛を担う,シロアリに特徴的なカーストで,幼若ホルモン(JH)量の上昇に伴って職蟻から分化する.その存在比は兵隊と職蟻とのフェロモンを介した個体間相互作用により制御されると考えられており,兵隊は職蟻のJH量を低下させることが知られるが,生理状態の改変をもたらす至近機構は不明瞭である.この個体間相互作用に関与する遺伝子の同定を目標とし,兵隊の存在により職蟻において発現量が上昇する遺伝子を探索するため,次世代シークエンサーを用いたRNA-seqを行った.

実験にはヤマトシロアリを用い,職蟻へのJH投与により兵隊分化を誘導しつつ,兵隊を同居させて分化率を操作する系を利用した.兵隊と同居させた職蟻と,同居させなかった職蟻からRNAを抽出し,シークエンスとde novo assemblyにより181,244個のコンティグを含むcDNAライブラリを得た.発現解析の結果,兵隊により発現量が上昇する少数の遺伝子を見出した.それらの遺伝子には細胞周期の抑制や,生体異物を排除する機構に関わる遺伝子が含まれており,発生の抑制やフェロモン伝達に関与する機構が,兵隊との個体間相互作用により職蟻体内で励起されることが示唆された.また,兵隊の不在下では,JH投与により多くの遺伝子の発現が上昇することも示された.これらの解析から,兵隊の存在により職蟻において発現が上昇する少数の遺伝子が,兵隊分化に関わる多数の遺伝子の発現を抑制することで,新たな兵隊分化が抑えられるという仮説が立てられた.


日本生態学会