| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(口頭発表) G2-08 (Oral presentation)

個体群動態におけるbottleneckとsweepstakesがDNA配列に残す痕跡

丹羽洋智(水研セ・中央水研)

様々な海産魚類で低頻度アレルの過剰と浅い系統樹が報告されている。これはKingman coalescentに基づく標準的な解析では、最終氷期の集団のボトルネックと以降の急激な膨張という個体群動態によって説明される。一方、多産故の繁殖成功度の極端な個体差はreproduction sweepstakes(少数の遺伝子型が子孫集団に引き継がれる事象)の要因となり、この加入過程による系統樹は多重分岐し浅くLambda coalescentによって記述される。

2つのシナリオをKingmanおよびLambda coalescentsモデルによりシミュレーションし(Lambda coalescentの確率測度はBeta分布とする)、集団のbottleneckと加入のsweepstakesがDNA配列に残す痕跡をFay & Wu's H(置換塩基数が高頻度と中程度の多型サイトの数を比較する統計量)とミスマッチ(2つの配列間で異なる塩基対の数)分布から検討する。シナリオBottleneckではHはほぼ正値を取りゼロ近傍に分布する(塩基頻度スペクトルはL字型)。シナリオSweepstakesではHは正値にモードを持ち負値に偏って分布する(U字型の頻度スペクトルがみられる)。また、シナリオBではミスマッチ分布から瓶首のonset時点τは正値に分布し、異なる塩基対数はτを指数とするPoisson分布に従う。シナリオSではτは負となる割合が高く、定常集団のように見え、異なる塩基対数は幾何分布する(Tajima's Dは負値)。

Grant & Bowen (1998)はマイワシmtDNA系統の浅い歴史に対してシナリオBに沿う報告をしている。一方、土佐湾採集のマイワシmtDNA配列の解析からはHは正値(シナリオ選択不可)、τは負値となり、上記結果を踏まえるとシナリオSが示唆される。


日本生態学会