| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(口頭発表) H1-11 (Oral presentation)

海水温暖化傾向にともなう岩礁潮間帯の貝類群集の長期変化 - 1985〜2010年の25年間の連続定点調査からの解析

大垣俊一(和歌山県田辺市),*石田 惣(大阪市立自然史博物館)

大垣は1985年より和歌山県白浜町の岩礁潮間帯に8×8mの永久方形枠を69枠設定し、貝類相(計242種)とその密度を年1回観測した。2010年までの25年間のデータから明らかになった、貝類群集の変化について報告する。

【物理環境の変化】物理環境のうち25年間で有意な増加/減少を示したのは気温と沿岸水温(上昇)、及び栄養塩濃度(減少)だった。沖合水温、塩分濃度、台風数、沿岸から黒潮までの距離、風速の長期傾向に有意な変化はなかったが、物理環境全体の類似度は97〜98年を境として変化していた。

【貝類相の変化】種毎の地理的分布を南方性(分布の南限30° N以南かつ北限35° N以南)とそれ以外とで定義すると、25年間で南方性種の種数・密度が増加していた(種数比27→40%)。食性(藻食・肉食・懸濁物食)では肉食者が増加、形態(巻貝型・笠貝型・固着型)では巻貝型が増加、幼生発生様式(完全浮遊型・部分浮遊型・直達型)では部分浮遊型が増加し、直達型は減少していた。種組成の類似度は97〜98年を境に変化し、同時期に多様度も増加から減少に転じていた。これらの変化は南方性種の増加として総括された。

【要因解析】南方性種の増加要因は、半偏相関に基づくパス解析により次のように説明された:冬季黒潮距離(近接)→冬季沖合水温(上昇)→冬季沿岸水温(上昇)→南方性種(増加);冬季気温(上昇)→冬季沿岸水温(上昇)→南方性種(増加);年間黒潮距離→南方性種(増加)。冬季沿岸水温の上昇は南方性種の冬季死亡率を減少させ、黒潮の接近は南方性種の幼生の供給量を増加させたと考えられる。これはごく小さい空間スケールで起きた「レジームシフト」(長周期気候変動に伴う生物群集構造の転換現象)と言ってよいかもしれない。


日本生態学会