| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA1-001 (Poster presentation)

マルバダケブキがシカ食害を受けた高山植生の回復に及ぼす影響

*渡邉修,三尾健斗(信州大・農)

南アルプス仙丈ヶ岳においてシカ食害による高山植物の被害が大きな問題となっている。高山植生の回復目的で馬の背(標高2650m)地点に防鹿柵が設置されたが,柵設置後キク科多年草のマルバダケブキが優占し,他草種の回復を妨げていると考えられる。本研究では高山帯におけるマルバダケブキの刈り取り実験を行い,高山植生回復に及ぼす影響を調査した。調査地は仙丈ヶ岳馬の背付近の防鹿柵内で,マルバダケブキの刈り取り区と無処理区を設置し,2012年8月に事前植生調査を行った。調査後,刈り取り区において地上部すべてのマルバダケブキを刈り取り,葉幅(w1)・葉長(w2)の積から葉面積(LA)を推定する回帰モデルを作成した(LA=1.0239w1w2+18.89)。2013年8月にマルバダケブキ刈り取り区と無処理区において植生調査を行い,刈り取りによる他の高山植物の回復状況を比較した。すべての区においてマルバダケブキの葉幅・葉長・草高を測定し,上記回帰モデルに当てはめ葉面積指数を8月から10月にかけて測定した。植生調査の結果,1年後の刈り取り区ではマルバダケブキの優占度が減少し,ヒゲノガリヤス,シラネセンキュウ,ミヤマシシウド,キバナノコマノツメなどの増加が見られた。無処理区ではマルバダケブキが高い優占度を示した。マルバダケブキのLAIを層別に比較した結果,刈り取り区では30cm以上の層にマルバダケブキがほとんど見られず,葉面積は前年度から約1/3に減少した(LAI=0.17)。これらの結果から,マルバダケブキの刈り取り管理はマルバダケブキの存在量,個体サイズの縮小化を促し,他の高山植物の回復に効果があることを示したが,ヒゲノガリヤスの存在量が大きく上昇し,今後,他草種の回復に影響を及ぼす可能性がある。


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