| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA1-046 (Poster presentation)

絶滅危惧種ヒメサユリが自生する多雪地域の自然~半自然草地の種組成と植生構造

*大曽根陽子(首都大・理工), 河原崎里子(首都大・理工),菊地賢(森林総研)

日本の固有種であるヒメサユリ(Lilium rubellum)は分布域がきわめて狭く、これまでに自生が確認されているのは宮城県、新潟県、福島県、山形県の4県のみである。その一方で,分布域内においては比較的幅広い立地条件に出現する。本研究ではヒメサユリの生育適地の特性を明らかにするため,福島県只見町の立地条件の異なる3つの調査区において,その種組成と植生構造,環境条件を調べた。

3調査区では、あわせて49属61種の維管束植物が記録された。そのうち、すべての調査区に共通して出現したのはわずか3種で、それぞれの調査区の種組成は大きく異なっていた。浅草岳調査区は雪田草原群落に強い風雪によって矮性化した木本が混じる植物群落だった。柴倉山調査区は、乾燥した尾根に成立する木本群落の構成種に、定期的な刈り払いによって侵入したと思われる高茎草本を交えていた。スキー場調査区は、スキー場周辺の林分から定着したと思われる二次林構成種と、やはり定期的な刈り払いによって侵入した二次草原の草本種からなる群落となっていた。3箇所のヒメサユリ自生地は共通した植物社会的な傾向がない一方、風雪や人為攪乱によって発達を妨げられた木本種に草地性植物が混在した草原的景観である点では共通しており、ヒメサユリの生育には開放的な草地の維持が必要であることが示唆された。

また,自生地の照度,土壌水分量は雪解け直後に高く,その後約一か月かけて低下した。雪解けとともに芽を出すヒメサユリはちょうど光と水が豊富な期間に伸長をしており,初期生長にこれらの資源を潤沢に利用していることが予想された。また,ヒメサユリが伸長を終え開花を迎える頃には周囲の植物はまだヒメサユリより背が低いことから,早い初期生長はポリネータの誘引にもつながっていると推測される。


日本生態学会