| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA1-064 (Poster presentation)

サラワク泥炭湿地林の樹木の形態的な特徴

*門田有佳子,清野嘉之(森林総研),Auldry CHADDY(TPRL)

熱帯泥炭湿地林は、貧栄養・強酸性の水分を多く含んだ柔らかい泥炭地という立地に、多くの固有種が成立している。マレーシア・サラワク州にはShorea albidaが優占する泥炭湿地林が成立している。S. albidaの大径木の多くに、幹に腐朽による洞があると報告されているが、洞のサイズは定量化されていない。また他の樹種については、洞の有無の報告がほとんど無い。泥炭湿地で成育し続ける上で、幹が腐食しやすいことが普遍的であるなら、洞のサイズと個体サイズの関係は、腐食の防御と成長のバランスという成長戦略を意味するだろう。2013年8月にサラワク州の泥炭湿地林で破壊調査を実施し、洞を含む個体サイズとバイオマスを測定した。その結果、DBH40cm以上の個体で明らかな洞があり、洞の容積は幹体積の50%にも達した。またS. albida以外の樹種にも洞があり、DBHと洞の容積には正の相関があった。同じDBHの小径木で比較したところ、泥炭湿地林の中でも養分が多い場所のS. albidaの材は脆心材と硬材があったのに対し、養分の少ない場所は脆心材だけであった。養分の多い場所は、個体サイズが大きく、個体密度と胸高断面積が高いことから、他個体との競争が激しいと予想された。一方で養分の少ない場所は個体サイズが小さいものが多く、個体密度と胸高断面積が低かった。泥炭湿地林の中でも、他個体との競争が生じる場所では、脆心材と硬材を作り出すことによって自身の成長を優先させている。結果的に脆心材は腐朽して幹に洞ができるが、硬材だけになっても腐朽防御よりも成長を優先している。泥炭地のように軟弱な場所では、地上部が軽いことがメリットにもなるだろう。一方で貧養な場所では硬材を作るだけの養分が獲得できないため、脆心材で幹を作り続ける。最終的に達するサイズが小さいため、洞の存在が目立たないことが予想される。


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