| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA1-087 (Poster presentation)

経年の土壌水分処理がカバノキ属二種の水分生理特性に及ぼす影響

*田畑あずさ,小野清美,隅田明洋,原登志彦(北大・低温研)

ダケカンバ(Betula ermanii)とシラカンバ(Betula platyphylla)は,温帯から亜寒帯地方に生育するカバノキ属の落葉広葉樹である。この二種は葉の形や幹の色などが似通っているが,生育地は光合成適温域の違いによって寒冷地を好むダケカンバと,温暖な地を好むシラカンバに分けられる。ダケカンバが生育する寒冷地の気候特色には「低温」の他に「乾燥」があり,ダケカンバは前年に乾燥処理を受けることによって,翌年に展開する葉の光合成速度が低下せず,土壌の水分を獲得するために細長い根を生長させることが明らかになっている。同様にシラカンバでも,乾燥条件下において根系を発達させていることが知られている。本研究では,この二種の分布特性に「乾燥」が寄与するのかを検討するため,数年間において異なる土壌水分条件で生育したダケカンバとシラカンバの苗木を用い,水分特性の変化や光合成機能応答,個体の生長を調査した。

水分特性では,シラカンバよりもダケカンバの方が耐乾性の高い傾向を示したが,土壌水分条件による差は二種ともに見られなかった。単位葉面積当たりの水分量は,シラカンバよりもダケカンバの方が多い傾向を示し,ダケカンバでは土壌水分処理の期間が長い個体ほど,単位葉面積当たりの水分量を保持したまま葉の厚さを薄くする傾向を示した。光合成機能応答では,乾燥処理個体の最大光合成速度,蒸散速度,気孔コンダクタンスが二種ともに低下したが,前年もしくは前々年に乾燥処理を行われた個体では低下しなかった。発表ではこれらの水分特性の変化や光合成機能応答の他に,個体の生長や葉寿命,光合成機能低下による光阻害を防ぐための過剰光エネルギー防御機能反応の調査結果を加えて,経年の土壌水分条件変化に対する応答の違いから,カバノキ属二種の生育地を分ける要因について議論を行う予定である。


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