| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA1-112 (Poster presentation)

高山植生の分布変化がライチョウ生息域に及ぼす影響を推定する-温暖化による動植物間の相互作用への影響評価-

*津山幾太郎(森林総研・北海道),堀田昌伸(長野県環境保全研),中尾勝洋(森林総研),尾関雅章(長野県環境保全研),比嘉基紀(高知大・理),小南祐志(森林総研・関西),松井哲哉(森林総研),安田正次(森林総研),田中信行(森林総研)

日本の高山生態系を象徴する種であり,絶滅危惧種でもあるライチョウについて,コアな生息地域である北アルプス中部を対象に,温暖化に伴う高山植生の分布変化が同種の潜在生息域に与える影響を評価した.

ライチョウの潜在生息域は,ライチョウの縄張りを高山植物群落の面積率と尾根からの距離で推定するモデル(モデルA)と,高山植物群落の面積率を気候と地形から推定するモデル(モデルB1,B2)の3つのモデルを統合して推定した.温暖化後(2081-2100年)のライチョウの潜在生息域は,モデルB2に24個の気候変化シナリオを当てはめて求めた温暖化後の高山植物群落の面積率を,モデルAに当てはめて推定した.高山植物群落には,環境省提供の1:25000植生図から得られたハイマツ群落,雪田群落,風衝地群落を用いた.解析の空間解像度は,ライチョウの縄張りの大きさに基づいて300mとした.

全てのモデルで,良好な精度を得ることができた.モデルAから,3つの高山植物群落ともライチョウの生息条件として重要で,面積率が低いとネガティブに作用することが示唆された.モデルB1,B2から,高山植物群落の面積率には,マクロスケールでの気候要因と,ミクロスケールでの地形要因の両要因が重要であることが示唆された.ライチョウの潜在生息域は,温暖化に伴う高山植物群落の面積率の減少により,99%以上が消滅するが,気候シナリオによっては残存する場所が北東部などに存在することが明らかになった.こうした地域は,ライチョウの保護事業を行う上で,優先的に対象地とする必要があると考えられる.


日本生態学会